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vol.240(11月30日)

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◎ 選考委員の有栖川有栖が「恐怖と謎がしっかりと絡んでいる」と太鼓判!
横溝正史ミステリ&ホラー大賞《大賞》受賞作!【原浩『火喰鳥を、喰う』試し読み④】(2020.11.30、 カドブン)
https://kadobun.jp/trial/hikuidori/67hyemkjv208.html
  KADOKAWAの新人文学賞として、ともに四半世紀以上の歴史を持つ
「横溝正史ミステリ大賞(第38回まで)」と「日本ホラー小説大賞(第25回まで)」。
この2つを統合し、ミステリとホラーの2大ジャンルを対象とした新たな新人賞
「横溝正史ミステリ&ホラー大賞」が2019年に創設されました。
そして2020年、2つの賞の統合後、はじめての大賞受賞作『火喰鳥を、喰う』が12月11日に発売となります。
選考委員の有栖川有栖氏が「ミステリ&ホラー大賞にふさわしい」と太鼓判を押し、
同じく選考委員の辻村深月氏が「謎への引きこみ方が見事」と激賞した本作。
第一章の試し読みを特別に公開いたします。
ミステリとホラーが見事に融合した衝撃のデビュー作、是非チェックしてくださいね。
記事によると、かの地に眠る幾多の日本人への鎮魂の祭儀が、先月、七月下旬に執り行われたらしい。
現在のパプアニューギニアの諸所、ポートモレスビー、ウエワク、マダンといった
兵士たちが落命した複数の戦地で巡拝がなされたという。
日本から訪れた多くの遺族と同行した神主が椰子の木を背に祭壇を拝する、慰霊祭の写真も掲載されていた。
 こうした催しが今もなお続けられていることに、私は軽い驚きを覚えた。
「慰霊巡拝の最終日に訪れたのはアファという河畔の小さな村でした。
トラブルも無く、慰霊も滞りなく済みましたが、最後になって現地のガイド役の運転手が、
自宅に日本兵の手帳があるので遺族に返還してほしいと申し出てきたのです」
 与沢は眼鏡をくいと押さえて一呼吸おくと、話を先へ続けた。
ゆっくりと言葉を継ぐのは、高齢の保への配慮かもしれない。
「ガイドの方のお名前は……、えと、何でしたっけ? 玄田さん」
「マイケル・ドゥサバ」尋ねられた玄田が答えた。
「そうそう、ガイドの名前はマイケルさんという男性で、玄田の紹介だったんです。
……そのマイケルさんの祖父、ラプレ・ドゥサバ氏は一昨年亡くなり、既に故人です。
今年、マイケルさんが祖父の遺品を整理していたところ、油紙に包まれた黒い手帳が見つかりました。
マイケルさんは日本語を読めませんが、現地には日本の言葉をある程度は理解できるお年寄りが多くいらっしゃいます」
「日本軍占領の遺風ですね」亮が口を挟む。「日本軍を好意的に捉えている人達もいたと聞きますよ」
 与沢は頷くと、話を先へ続けた。
「そこで、どうやらこれは日本兵の手帳であろうという結論になったそうなんです。
処置を思案していたところ、折よく我々が現地を訪れた。
まさにグッドタイミングだったんですね。廃棄される可能性もあったわけですから。
日記自体はアイタペという街の、マイケルさんのご実家に置いてあるとのことでした。
ただ日程の都合上、その時は伺うことができなかったので、帰国後に私共にメールで写真を送って頂きました。
手帳の表紙と中身を数枚です。内容はやはり旧日本軍の従軍日記でした。そして表紙裏の最初の頁に、
持ち主と思おぼしき久喜貞市という名前の記載がありました」
 久喜貞市。墓石を思い出し、寒気がした。仏壇に位牌もある筈だが、これまで気にかけたことも無かった名前だ。
それなのに今日に限っては何度もその名を耳にしている。
「送られてきた画像には所属部隊等の記載が見当たりませんでした。
ただ慰霊祭の実行委員の中に弊社のOBがおりまして、昔、戦後復員の記事を執筆しました。
南方で落命された久喜貞市さんのお名前がたまたまその者の記憶にあったのだそうです。
ともあれ、我々は責任を持ってご遺族に返還する旨をお伝えして、ニューギニアより従軍日記を送って頂きました」
 そう言うと、与沢は傍らの鞄から大きな茶封筒を取り出した。
中から慎重な手つきで白い紙に包まれた何かを引き出すと、恭しく卓上に置く。
皆の視線が注がれる中、白紙の折り目が解かれて一冊の黒手帳が現れた。
「この手帳です」
 手帳は小型で細長く、縦十五センチ、横七、八センチ程度のものだった。
現代でいえば最もコンパクトな部類のビジネスダイアリーといったところだ。
表紙は黒革で文字は無いが、ところどころに薄茶色の染みが落ちている。
「表紙を開くと、こちらにお名前があります」
 与沢が表紙をめくると、確かに「久喜貞市」と達筆な四文字がある。
罫線は横に引かれているが、手帳を横に寝かせて使っていたらしく、罫線に沿って縦書きで記されている。
紙面は黄ばんでいて、虫が食ったのか所々小さな穴が開いていた。
 与沢記者はさらに頁を繰った。
「先んじてお電話でお話しさせて頂きました通り、数頁めくると筆者の所属部隊の記載がありました。
第二百九飛行場大隊……昭和十八年の日付です」
「じいちゃん、これ、大伯父の所属部隊で間違いないんだよね?」私が確認すると、保は神妙な面持ちで首肯した。
「ほうよ。開戦時は満州だに」
「じゃ、やっぱりうちの貞市さんのもので決まりね」伸子がうんうんと頷く。
「この日記を持っていたガイドのお祖父さん、ラプレさん? ――は、
これをどこで手に入れたのですかね?」と、私は与沢に尋ねた。
「当時を知るご親族のお話によりますと、戦時中ラプレさんはアイタペの山岳地帯で日本兵と遭遇したそうです。
後にそこへ連合軍の部隊を案内したと。その際、一名の日本兵を発見し射殺したそうです。
終戦まであとわずかという時期です」
「それが手帳の持ち主ってことですか」
「おそらく。七十年前なので詳しい経緯はわかりませんが、ラプレ氏はその時に日記を入手したのでしょう。
当時の米軍は日本兵の従軍日記を情報源として全て回収し、分析活用していたそうです。
しかし、ラプレ氏に同行していたのはアメリカではなく、オーストラリア軍です。
彼らはその点を徹底していなかったのかもしれませんね」
「その時射殺された兵隊が大伯父だとすれば、戦死の状況は、藤村さんから聞いていた話と合致するんだよね?」
 私の質問に保はわずかに目を伏せることで同意した。
 久喜貞市は所属部隊の離散後、多くの兵士と共に密林に逃亡潜伏したらしい。
そこで行動を共にした二人の部下は終戦後に現地で捕虜となったが、その後無事に復員した。
大伯父の部隊で生き残りはその二名のみであったという。
久喜家に伝えられた大伯父の死の状況は、帰還した彼等の証言からわかったことだ。
そのうちの一人、藤村栄は、今もなお存命と聞いている。
「貞市さんの日記は昭和十八年の一月から記されています」
 与沢が卓上中央に日記を寄せ、囲む一同で覗き込む。黒インクの文字は雨水を吸ったのか所々滲んでいたが、
十分に判読できる。
とはいえ所々片仮名混じりの達筆は、読みやすいとは言えない。
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◎ 七十年以上前に亡くなった「死者の日記」。そこに記されているものとは――。
横溝正史ミステリ&ホラー大賞《大賞》受賞作!【原浩『火喰鳥を、喰う』試し読み⑥】
 (2020.11.28、 カドブン)
https://kadobun.jp/trial/hikuidori/czn2dw1a9bwc.html
  KADOKAWAの新人文学賞として、ともに四半世紀以上の歴史を持つ
「横溝正史ミステリ大賞(第38回まで)」と「日本ホラー小説大賞(第25回まで)」。
この2つを統合し、ミステリとホラーの2大ジャンルを対象とした新たな新人賞
「横溝正史ミステリ&ホラー大賞」が2019年に創設されました。
そして2020年、2つの賞の統合後、はじめての大賞受賞作『火喰鳥を、喰う』が12月11日に発売となります。
選考委員の有栖川有栖氏が「ミステリ&ホラー大賞にふさわしい」と太鼓判を押し、
同じく選考委員の辻村深月氏が「謎への引きこみ方が見事」と激賞した本作。
第一章の試し読みを特別に公開いたします。
ミステリとホラーが見事に融合した衝撃のデビュー作、是非チェックしてくださいね。
>>第5回へ
 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
 続いて日記にはニューブリテン島への機材揚陸後、ココポという地に駐屯する旨が記載されていた。
以降は連日続く飛行場補助施設建設の模様や島の情景等が簡潔に綴られている。
夜間空襲は度々受けたようだが、文面からはそこまで逼迫した状況は感じられなかった。
むしろ現地民との果実の交易についても頁が割かれるなど、ややもすれば楽し気な南国の日常といった風にも感じられる。
 しかし、六月に入ると様相は急変し、夜間空爆とそれによる被害状況についての記述の頻度が目に見えて増えた。
六月七日
夜間爆撃あり 敵は飛行場を目標に定めたる模様
掩体なく野外繋留の飛行機四機が大破炎上
死傷者若干名
六月十日
夜間爆撃あり 高射砲陣が反撃するも戦果ナシ
第一滑走路破損 使用不能  一昨日より行われた路面修理が水泡に帰す
六月十二日
夜間爆撃あり 敵爆撃機、数時間にわたり飛行場上空を旋回スル
地団駄、切歯扼腕も為す術ナシ
戦死者若干名
「この頃から坂道を転がるように戦況は悪化の一途です」
 与沢の解説を待たず、それは日記からも読み取れた。
 貞市の部隊はココポ基地からパラオ群島へ移動。さらに十一月にはニューギニア島、
ウエワク近郊のブーツ飛行場に前進とされている。
保によると、これは貞市の所属部隊、二百九飛行場大隊の担当航空戦隊がブーツに異動になった為であるらしい。
飛行場大隊とは日本陸軍の部隊編制の一つで、
航空機の整備補給や飛行場の警備など航空部隊の後方支援を任務とした部隊であるという。
つまり提携する飛行戦隊が移動すると大隊も随伴するのだ。
 しかし日記には本来従事すべき航空機整備についての記載はほとんど無い。
与沢記者によると、この頃には肝心の航空部隊が損耗激しく、その数を著しく減じていたためらしい。
要するに本来の任務そのものが遂行不能だったのだ。
 年も明け、昭和十九年になると連日の空襲で疲弊した部隊の状況についての記述も急増した。
さらに三月を迎えると、前線から撤退する兵士の記載も見られるようになった。
三月十日
前線から転進部隊が続々到着 全員徒歩 疲労困憊
マダン、ラエから正月より歩き詰めの者もあり
ホルランヂアまで退がるという
聞けば前線では弾薬、糧食尽き、友軍同士わずかな食を争うこともあったという
途中自力後退できぬ者はやむなく残置の他なく マラリア罹患による死者多数
皇軍に有るまじき惨の一語 増援はまだか
「ホルランヂアってどこでしょう? グーグルマップには載ってないですよ」
亮が訝しげに手元のタブレットをタップしている。彼は日記の内容を手元と見比べつつ、
真面目に時系列と場所を追っていた。
「現代ではジャヤプラといいます」与沢記者が答える。
「この時、日本軍はパプアニューギニアの北岸を占領していましたが、東のポートモレスビーから連合軍の反撃を受けています。
ジャヤプラは大規模な飛行場と港湾施設を備えた後方基地でした」
「その基地まで逃げるってわけですね。……ジャヤプラ、ジャヤプラ……ああ出てきた。ここですか?」
 亮は液晶画面に起動している地図アプリの検索結果を私たちに見せた。
パプアニューギニア北岸の都市の上にアイコンが表示されている。
「そうです。久喜貞市さんがおられたのはブーツ飛行場ですから……丁度この辺りですね」
 与沢はそう言ってジャヤプラを示すアイコンの数百キロ東、何の記載も無い海岸近くを指差した。
「それから日記に出てきたマダンというのはここ。ラエはさらに東……ここですね」
 与沢は画面に指を走らせて地図をスクロールさせると、それぞれの地名を示して見せた。
「げ。これって滅茶苦茶遠いじゃん。これを歩いて移動したのか」亮が驚いた声をあげる。
 与沢が最後に示した最も東のラエから、ブーツ飛行場までは、地図上の直線距離でも四、五百キロはありそうだ。
ホルランヂア、現在で言うところのジャヤプラは、さらにそこから三百キロ以上は西に位置している。
この距離を日本軍は徒歩で敗走していたのだ。
「ろくに整備された道路はありません。行軍は相当厳しいものであったようです。
戦況は著しく悪化し、前線から逐次撤退を余儀なくされます」
 取材を重ねただけあって、流石に与沢記者は当時の戦況についてよく把握している。
さらに日記の頁を繰ると、ついに久喜貞市の部隊も撤退を始める旨が書かれていた。
四月七日
我が隊もホルランヂア本隊に合流の命令を受ける
一旦航空基地に拠り本国の増援を待って反攻する算段
四月十日
行軍開始 ブーツ基地を発し途上のアイタペを目指す
目的地のホルランヂアまで凡そ一ヶ月の行程
四月十九日
アイタペ着 落伍者ナシ
「中継基地のアイタペに着いたのがこの日。で、翌日にはすぐにアイタペ基地を出発しています。
この二日後、日本軍にとって運命の日、昭和十九年四月二十二日が来ます」
 与沢はさらに日記を先へ進めた。
四月二十二日
早朝後方より激しい銃砲声聞ゆ
間も無くアイタペ飛行場に敵機動部隊上陸の報あり
しかれども我が隊は命令通りホルランヂアへの行軍続行の旨伝達さる
もとより武器を携行する者は少なく是非もナシ
敵哨戒機を避け山中に迂回する進路トル
「この日、米軍の二十四師団、四十一師団を主力とする連合軍がアイタペとホルランヂアへの同時上陸作戦を実施して、
日本軍は両基地とも有効な防衛戦を果たせず即日陥落しています」
「すると、二日前に後にしたアイタペ基地だけじゃなく、
撤退先の基地までが敵の手に落ちているわけですね」与沢の説明を受けて、亮が手元のタブレットを見ながら言う。
「そうです。ニューギニアの日本軍はほぼ壊滅。この時、久喜貞市さんは知る由もありませんが、
前後を挟まれ既に進退窮まっていたのです」
「厳しいですねえ。行くも帰るもできずかぁ」亮の呟きはちっとも厳しそうじゃない。
(つづく)
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◎ 途上国にタブレット1万8000台 総務省が贈呈へ(2020.11.27、
 livedoor news) https://news.livedoor.com/artcle/detail/19289227/
  総務省はコロナ禍で世界的にデジタル化が進むなか、アフリカのルワンダにタブレット端末4000台を贈呈しました。
 総務省は途上国に対し、3年間で1万8000台のタブレット端末を配布する予定です。ルワンダへの贈呈式でルワキョム大使は、
「コロナで外出制限が続くなか、デジタル化を進められるタイムリーな贈り物だ」と感謝の意を示しました。
配布された4000台は小学生が家で勉強したり、将来の技術者育成などに役立てられるということです。
これまでにパプアニューギニアにも4000台を贈呈していますが、
来年4月からはミャンマーやネパールなどアジア諸国などに対しても配布していく予定です。
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◎ 新型コロナウイルスに関する注意喚起 (第81報)(2020.11.24、 
在PNG日本国大使館)https://www.png.emb-japan.go.jp/files/100118166.pdf (emb-japan.go.jp)
パプアニューギニアにお住まいの皆様及び渡航中又は渡航予定の皆様へ
●PNG 当局は、11月16日(月)以降、新規感染確認者数等につき以下の通り発表し ています。 16日(月):0名
17日(火):2名
18日(水):0名
19日(木):0名
20日(金):1名
21日(土):4名
22日(日):3名
→現在の累計感染者数:612 名
→現在の累計死者数:7 名
→累計確認者数の各州内訳:
NCD:353 名、セントラル州:7 名、西セピック州:1名、東セピック州:3名、ウ ェスタン州:204 名、
モロベ州:6 名、東ハイランド州:13 名、南ハイランド州:1 名、エンガ州:2名、東ニューブリテン州:2名、
ニューアイルランド州:2 名、西 ニューブリテン州:13 名、ブーゲンビル自治州:1名、ミルンベイ州:2名、
ヘラ 州:1 名、西ハイランド州:1名
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